世界の秘密

 (61~70)



 

 61.神の水


以前、「予言の解釈-8.聖母マリアの出現と警告」で少しご紹介したフランスのルールドについて、大聖堂が建立されるきっかけとなった事件を少し詳しくご説明しましょう。

『ルールドの奇跡』(久保田八郎:著、学研:1984年刊)という本によると、ピレネー山脈のふもと、ルールド(Lourdes)という田舎町で、1858年2月11日、ベルナデット(Bernadette)という名の少女に聖母マリアが出現しました。場所は、町の近くを流れるガーブ川の岸辺にあるマッサビエユの洞窟です。

その後、ベルナデットはこの洞窟に毎日通うようになりますが、2月25日の朝、聖母マリアに命じられて彼女が洞窟の地面を手で掘ったところ、泉が湧きだし、3月1日には、2年前から右腕の上腕神経が麻痺していた婦人がこの泉の水に手を浸したところ、病気が瞬時に治るという奇跡が起こったそうです。


奇跡の泉が湧きだしたルールド・マッサビエユの洞窟
【奇跡の泉が湧きだしたルールド・マッサビエユの洞窟】(画像は『るゝどの姫君』より)

また、『るゝどの姫君』(ヘンリ・ラッセル:著、天主公教会:1892年刊)という本によると、熱病で息が絶えた幼児を、母親がルールドの泉の水に15分間沈めたところ、幼児が息を吹き返して治癒するという奇跡も起こったそうです。この本には、他にも医師が奇跡と認めた治癒例が数多く載っています。

そして、前述の『ルールドの奇跡』によると、こういった奇跡はその後も現代まで継続して起こっているそうですから、ルールドの泉の水は、まさに「神の水」とよぶにふさわしい、人類救済の聖水であると言うことができるでしょう。

ところで、『人間の意思』(芹沢光治良:著、新潮社:1990年刊)という本にも、「神の水」の話が出てきます。著者の芹沢先生は、若い頃、フランス留学中に急病で危篤に陥った際に、ルールドの水で一命をとりとめたことがあったのですが、晩年には、「神の水」を自分でつくることができるようになったそうです。

この本によると、芹沢先生は、1986年かそれ以前から、毎日「神の水」を自分でつくって飲むようになったそうです。また、具合の悪い友人や知人たちに「神の水」を無償で配り、それによって、がんやその他の難病に苦しむ多くの人が助かったそうです。

なお、この本は小説なので、これが事実かどうか疑問に思う人もおられるでしょうが、私は、芹沢先生の人生そのものが、「神の水」による奇跡が事実であったことを証明していると考えています。

というのも、先生は1896年生まれで、晩年にはかなり衰弱していた時期もあったそうです。それが、89歳の頃から急に元気になり、1993年に96歳で亡くなられるまで、毎年一冊書下ろし長編作品を発表されました。その創作活動のパワーの源がこの「神の水」だったと考えれば、納得がいくからです。

水は、生命活動を支える大切な存在ですが、それに何らかの神秘的な要素が加わることによって、難病をも癒す万能薬に変わるというのは驚きです。我々は、水の素晴らしさについて、もっともっと理解を深める必要がありそうですね。 (2016年12月31日)



 

 62.日本の霊泉


ルールドの奇跡の泉ほどではないかもしれませんが、日本には、霊泉と称えられる、とても治療効果の高い温泉が各地にあります。温泉というと、娯楽を連想する人も多いと思いますが、全国各地から湯治客が集まる霊泉には、西洋医学がはるかに及ばない不思議な効能が秘められています。

私がこう断言できるのは、私自身、整形外科では治らなかった坐骨神経痛が、栃木県の奥塩原にある新湯温泉のむじなの湯で完治したことがあるからです。ちなみに、私の場合は、重症ではなかったこともあり、3泊4日という短期間の湯治で大いに改善し、その後、4泊5日の湯治で完治しました。

数ある霊泉の代表例として、ここでは草津温泉をご紹介します。『草津鉱泉療法』(下屋学:著、1907年刊)という本によると、草津温泉の適応病に対する効果は、「絶大にして遠く医療の及ばざる所あり」と書かれています。なお、著者の下屋氏は地元の医師で、この本に多くの治癒例を記録しています。

草津温泉の泉質は、金属がたちまち変色するほどの強い酸性の硫黄泉であり、そのため、数十回入浴を繰り返すと、皮膚がただれてくるそうです。

ただし、これはむしろ歓迎すべき症状で、ただれた部分から体内の悪いものが出るため、次第に病状が改善し、入浴患者は気分爽快になるそうです。そして、この特徴を積極的に利用するため、湯治の期間は6~7週間程度を見込む必要があるそうです。

草津温泉の効能は、防腐・消毒作用が強く、梅毒に特効があり(特に第二期)、皮膚病、リウマチ、神経衰弱、痔疾などにも有効で、また、慢性の病気全般に効果があるそうです。なお、リウマチや神経痛に対しては、入浴するより、下の図のような蒸気浴の方が効果が大きいそうです。


リウマチや神経痛に効果がある蒸気浴の装置
【蒸気浴をするための装置】(画像は『草津鉱泉療法』より)

梅毒は、ヒ素剤(サルバルサン)や抗生物質(ペニシリン)がなかった当時(明治40年)には、根治させることが困難な病気だったわけですが、それが2か月足らず温泉に入浴するだけで完治したというのは驚きですね。

また、当時の梅毒治療薬は、毒性の強い水銀剤で、そのため水銀中毒を起こす場合があったそうですが、草津温泉に入浴すると薬毒も排泄されるため、湯治後は水銀中毒も軽快したそうです。

しかも、草津温泉は消毒作用が強いため、梅毒やその他の伝染病が他人に感染することはなかったそうです。ちなみに、下屋医師は、数百例の手術において、傷口の消毒に草津温泉の水を用い、化膿することがなく、しかも術後の経過が良好だったことを実際に体験しているそうです。

なお、草津温泉は効力が強い分、禁忌症に対する注意が必要で、脚気、肺結核、全身浮腫、心臓病、急性病などの患者は入浴してはいけないそうです。また、当然のことですが、妊婦・老人・幼児や、衰弱した人、脳の血管に問題がある人などが入浴する場合には、特別な注意が必要だそうです。

最後に、特効のある温泉の見つけ方をご紹介しましょう。

例えば、神経痛を治したい場合は、インターネットで「湯治 "神経痛に特効"」というキーワードで検索し、最初のページだけでなく、10ページ程度は根気よく情報を調べれば、意外と身近な場所で素晴らしい温泉を発見できるかもしれません。

私の場合も、インターネットで候補となる温泉をいくつか発見し、東京から「もみじ号」という高速バスで直行できる塩原に決めました。

また、全国の湯治場を紹介しているガイドブックを買うのも手っ取り早い方法だと思います。他には、国民保養温泉地に指定されている温泉をピックアップして、効能について直接問い合わせてみるのもよいかもしれません。もし、長期滞在する場合は、湯治客用の安い宿があるかどうかも重要ですね。

温泉というと、効能があるのが当たり前のように思われますが、よく考えてみると、西洋医学では治らない病気が治るというのはとても不思議なことです。日本は、数多くの霊泉に恵まれているので、ぜひ活用していただきたいと思います。 (2017年2月25日)



 

 63.土壌療法


温泉に薬効があるのは、温熱作用も考えられますが、自宅の風呂で難病が治ったという話は聞いたことがないので、地中のミネラルなどの有効成分がお湯に溶け込んで薬湯となったためと考えるのが正しいようです。したがって、大地には本質的に病気を治す不思議な力があるようです。

そして、直接的に土や泥、砂などを用いる治療法も存在します。それらは、土(つち)療法とか、泥(どろ)療法、砂浴(しゃよく)療法などとよばれることもありますが、ここでは、土、泥、砂を総称する意味で、土壌(どじょう)療法とよぶことにします。

近代において、この土壌療法に関する知識を広めたのは、ドイツ人のアドルフ・ユスト(Adolf Just)という人物のようです。

『最新健康法全書』(西川光次郎:著、丙午出版社:1916年刊)という本によると、この人は、多年病弱で、あらゆる医薬が無効だったそうですが、自然のままの単純な生活によって健康体となり、真の健康回復法を人々に教えるために療養所を開いたのだそうです。

その療養所には、少人数で泊まれる小屋がたくさんあり、そこでは、空気浴、日光浴、砂浴、冷水浴をすることができたそうです。食事は、果実が主で、バター、牛乳、黒パン、野菜を補助的に用いたそうです。また、薬は一切使用しなかったのですが、病弱な人も、そこに宿泊してしばらくすると見違えるほど健康になったそうです。

さて、土壌療法の一般的な効能ですが、『最新健康法全書』によると、アドルフ・ユスト氏は、次のようなことを自分の身で実験し、療養所にきた数千人の患者にも試みてことごとく成功したそうです。


 
 
土壌療法の一般的な効能
傷や腫物(はれもの)、一切の皮膚病は、土を冷水で湿らせて塗っておけば治る。
一切の熱病は、身体に泥を塗ると熱が下がる。
肺が悪い場合は肺の上に、心臓が悪い場合は心臓の上に、胃が悪い場合は胃の上に、また、ヂフテリアの場合は首の周囲に泥を塗るとよい。
頭痛の場合はうなじに泥を塗るとよい。
眼や耳に痛みがある場合にも、眼や耳に泥を塗ると痛みがすぐに治る。腹に泥を塗ると、下腹部の病気によい。
夏なら、裸体で土の上に毛布をかぶって寝ると、大変身体の活力が増える。
毎日30分、患者を仰臥させて首から下を土に埋めると、患者は日に日に元気になった。
足が冷えて困るという人を、毎日30分か1時間ずつはだしで土の上で運動させ、冷水で足を洗わせたところ、足が冷えなくなった。この療法は神経衰弱にも有効だった。

日本でも、土壌療法については古くから知られていたようで、『斯くして全快すべき肺自己療養法』(上野実雄:著、天然療養社:1918年刊)という本によると、淡路島の近海では、漁師がフグの中毒で苦しむときは、海岸の砂を掘って、首から下を数時間生き埋めにすることによって再生したそうです。

そして、著者の上野実雄氏は、土や砂を使った療法を絶賛して、「土は我等の外科医であり、又内科医である。」と語っています。なお、上野氏は肺結核だったようですが、砂浴が唯一の解熱法だったそうで、夏も冬も海岸の白砂に裸体で身をうずめたそうです。

また、上野氏は、マムシに咬まれた場合は、泥土に突っ込んでいれば、1~2時間でその毒が除かれると書いていますが、『最新健康法全書』にも、アドルフ・ユスト氏が読んだ新聞記事として、蛇に咬まれて医者から見放された女性が、土中に首から下を埋めたところ、6時間で治ったことが紹介されています。

さらに、『療病治心前期講習録 精常活用篇 中巻ノ一』(別所彰善:著、精常院:1926年刊)という本には、大正13年11月1日に、兵庫県のTK氏が、武庫川の近くで右足をマムシに咬まれ、翌日、医者に薬をもらったが悪化するばかりで、ついに著者の別所彰善氏に相談が持ち込まれたので、土壌療法を勧めたことが書かれています。

それによると、11月5日には、TK氏の下肢(すね)全部が腫(は)れて、ただれた各所から膿が出ている状態だったそうですが、庭先に穴を掘って、右足をそのまま土中に2時間ほど埋めたところ、翌日には腫れが著しく減退し、分泌物も減少して、全身の痛みも軽快したそうです。

TK氏は、その後も土壌療法を継続した結果、11月17日には少し歩けるようになり、21日目からは職場に復帰し、一か月ほどで全く快癒したそうです。当時は、マムシに咬まれて死ぬことは珍しくなかったそうですが、手遅れの人でも完治するとは、土壌の解毒作用は想像以上に強力なようですね。

実は私も以前、猪苗代湖の砂浜で砂浴を体験したことがあります。特に病気だったわけではないのですが、あまりの気持ちのよさに、その後もう一回体験しに行きました。傷口に泥を塗るのはちょっと勇気がいりそうですが、自分自身の体験から、土や砂が身体を健康にすることは間違いないと思います。

現代人は、「土=不潔」であると洗脳されているので、土から離れた生活を送っている人が多いと思いますが、土には生命を育む偉大な力があります。たまには自宅の庭や公園ではだしになって、大地の恵みを味わってみてはいかがでしょうか? (2017年3月18日)



 

 64.催眠療法


催眠術は、18世紀後半に神秘的な治癒現象としてヨーロッパで注目を集め、19世紀には科学的に研究されるようになりました。日本では、明治時代に催眠術が広く紹介されるようになり、国立国会図書館デジタルコレクションで検索すると、明治36年(1903年)には、催眠術に関する本が13冊も出版されています。

『学理応用 催眠術自在』(竹内楠三:著、大学館:1903年刊)という本によると、催眠術(Hypnotism)とは、施術者が被験者に暗示(Suggestion)を与えることにより、被験者の行動や感覚を支配する技術で、当初は「動物磁気」(Animal Magnetism)という物理的な存在が原因だと考えられていたそうですが、19世紀になってから、次第に被験者の主観が原因であると考えられるようになっていったそうです。

ちなみに、この動物磁気説は一時期非常に有力だったそうで、調べてみると、哲学者として有名なショーペンハウエルも、『天然の意志』(シヨペンハウエル:著、大雄閣:1925年刊)という本のなかで動物磁気について論じています。

ここで、『学理応用 催眠術自在』に書かれている催眠現象の特徴を列挙すると、次のようになります。


催眠現象の特徴 詳細な説明
1.随意筋の操作 施術者が被験者に「あなたはもう動けない」と言うと、被験者がどんなに頑張っても身体を動かすことができなくなる。時刻を指定して特定の行動を命じることも可能。
2.物真似 施術者と被験者が互いにしっかりと見つめ合ったまましばらくすると、被験者は施術者の行動を真似(まね)るようになる。
3.不随状態 施術者が被験者の手をとって高く上げておくと、何も言葉をかけなくても被験者の手が上がったままになる。
4.硬直状態 施術者が被験者の全身を棒状に真直ぐにし、頭と足を台の上に載せて橋のようにすると、人が被験者の腹部に立っても身体が曲がらなくなる。

催眠術により身体が硬直した被験者 【催眠術により身体が硬直した状態】(画像は『学理応用 催眠術自在』より)
5.幻覚と錯覚 その場に誰もいないのに人がいると思わせたり(幻覚)、ハンカチを子犬だと思わせる(錯覚)ことができる。これは、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、痛覚等でも可能。
6.感覚の鋭敏化 被験者の感覚は極めて鋭敏になるため、目隠しをしたまま障害物を避けて歩いたり、人の所持品を嗅覚だけで識別して所有者を正しく特定することができる。
7.身体組織の変化 被験者の皮膚に何かを押しつけて、「あなたの皮膚に火傷(やけど)ができた」と言うと、押しつけた物体の形どおりの水ぶくれができる。
8.人格変換 年齢を変化させたり、別の人物(あるいは、動物や植物、物体)であると思い込ませることによって、被験者の人格を別のものに変換することができる。
9.その他の作用 催眠術によって、被験者の食欲、性欲、欲望や感情(愛憎、憂鬱、怒り、恐怖等)、腸の蠕動(ぜんどう)運動、体温、心拍数、呼吸なども制御することができる。

なお、「6.感覚の鋭敏化」に関しては、顕微鏡を使わなければ見えないはずの直径0.06ミリメートルの細胞が見えたり、厚い不透明なトランプの札を裏面から識別できたとする報告もあるそうで、非常に不思議です。ひょっとすると我々は、本来持っている能力の数パーセントも使っていないのかもしれませんね。

また、催眠術にかかりやすい人の特徴は、心が円満に発達していて、その働きが健全で、知力が進んでいて、意志が強固であることだそうです。逆に、心の発育が不完全で、その働きが病的で、感動が過敏で、知力が幼稚で、意志の薄弱な人は催眠術にかかりにくいそうです。

さて、前置きが長くなりましたが、催眠術は古くから病気の治療に用いられてきたそうで、催眠術による治療は催眠療法(Hypnotherapy)とよばれます。催眠療法の主な適応症は、機能的な疾病、すなわち、組織の損傷が発見されず、ただ機能の上においてのみ症状が現われている疾病だそうです。

具体的には、解剖的原因のない(つまり、原因不明の)疼痛(とうつう=頭痛や神経痛など)、不眠症、月経不順、食欲の欠乏(拒食症?)、妊娠中の嘔吐、アルコール中毒、ニコチン中毒、神経性の呼吸困難、吃(ども)り、慢性便秘、寝小便(夜尿症)などです。

精神病に関しては、心の問題なので催眠療法が有効な気もしますが、そもそも精神病の人には催眠術をかけることが極めて困難であるため、催眠療法は適用できないそうです。また、子どもの場合も、3歳以下だと決して催眠術にかからず、大抵8歳以上にならないと催眠術を施すことができないそうです。

一方、直接病気を治すのではなく、手術の際に催眠術で痛みを感じないようにする治療法もあります。『新撰催眠療法』(石田昇:著、南江堂書店:1917年刊)という本に、ベルリンの歯科医Richard Hummel氏が報告した無痛手術のことが書かれているのでご紹介しましょう。

一例目は、言語による暗示で、催眠状態にはなっていなかったようですが、30歳の男性の下顎の小臼歯を抜歯する際に、「ここに最新最良の薬剤があるので、無痛で抜歯ができます」と言って、蒸留水を塗布、および注射し、2分後に抜歯したところ、患者は少しも痛みを感じなかったそうです。

これは、薬の効力を調べる際に使われる偽薬(ぎやく=ニセモノの薬、プラセボ、またはプラシーボ)と同じことだと考えられますから、偽薬が効果を発揮するのも、ある意味、催眠術のせいと言っていいのかもしれませんね。

二例目は、本格的な催眠術で、36歳の女性の第二臼歯の虫歯が悪化して下顎骨炎と顎下腺腫脹を起こし、骨膜の化膿が進行していたそうですが、心臓弁膜症のため麻酔を使用することができず、本人の希望で催眠術をかけて手術を行なうことになったそうです。

そこで、あらかじめ催眠術の専門家に、「治療椅子にもたれかかり、Hummel先生が1から3まで数えると、すぐに眠りにつき、再び先生が起こしてくれるまで静かに眠ることができる」という後催眠(こうさいみん=覚醒後の行動を操作する催眠術)を数回施してもらったそうです。

そして、治療の際には、歯科医が1、2、3と数えると、患者はすぐに催眠状態になったので、完全に無感覚になることを暗示し、麻酔なしで無事に抜歯して患部の処置を終えることができたそうです。

催眠術によって無痛手術が可能になることは不思議ですが、これは、痛みというものが実在しておらず、自己防衛的な心の働きとして観念的につくり出されたものだからなのでしょうね。また、「9.不死身の男」でご紹介した関羽や腕の喜三郎は、何度も修羅場を潜り抜けることによって、痛覚を自分で制御することができるようになったのかもしれませんね。 (2017年4月23日)



 

 65.気合療法


かつて、日本に、釈迦の再来とかキリストの再来とまで称えられた霊術師がいました。それは、明治11年(西暦1878年)12月2日生まれの「濱口熊嶽」(はまぐち ゆうがく)という人物で、厳しい修行によって真言三密の秘法を17歳で修得し、数多くの難病人を気合もろともたちどころに治療したそうです。

この熊嶽師の半生を報じた新聞記事が、『東京大阪八大新聞連載 濱口熊嶽記事録』(大日本天命学院本部:1933年刊)という本にまとめられているので、少しご紹介しましょう。


釈迦の再来と称えられた霊術師・濱口熊嶽師の新聞記事
【濱口熊嶽師の驚異的な霊的治癒能力について伝える新聞記事の紹介】(画像は『東京大阪八大新聞連載浜口熊岳記事録』より)

それよると、熊嶽師は三重県の出身で、9歳で小学校を退学になったほど勉学が苦手だったそうですが、13歳のときに實川(じつかわ)上人という修験者に見込まれ、14歳から弟子として熊野の那智の滝で修業を始めたそうです。

熊嶽師は、17歳のときに實川上人から奥義を伝授されますが、その直後に上人が亡くなり、上人の身体は滝に落ちたそうです。熊嶽師は、上人を助けようとして、滝壺に降りる際に足を骨折したのですが、普段から習っていた九字を切ったところ、不思議にも骨折が治り、自分の超能力に気がついたそうです。

實川上人の死後、熊嶽師は山籠もりをやめて和歌山市に降りていったのですが、ある婦人が、娘が3年間も足腰が立たず寝たきりだという身の上話をしているのを偶然耳にし、その婦人の家に行って娘に同じ術を施したところ、娘は直ちに立って歩けるようになったそうです。

それをきっかけに、熊嶽師は病人を治すようになったのですが、時代は明治、文明開化の真っただ中ですから、まじないや祈祷(きとう)で病気が治るはずがないということで、警察に告発されること770回以上、法廷に立つこと47回に及んだそうです。

しかし、多くの証人が熊嶽師の施術によって治癒したことを証言し、さらに、実際に法廷で奇跡を起こすこともあったため、いずれも最終的に無罪か不起訴になったそうです。

治癒例としては、足が立たなくなった者が歩けるようになったり、目が見えなくなった者が見えるようになったり、耳が聞こえなくなった者が聞こえるようになったり、リウマチで動かなくなった手が動くようになったことが無数にあったそうで、こういった奇跡は確かにキリストを彷彿とさせますね。

また、歯痛や、母乳の出ない母親の治療はとても簡単だったそうです。もっとも、歯痛や母乳なら、催眠術でも何とかなりそうですが、熊嶽師は、歯を抜いたりホクロを落としたこともあったそうで、これらは催眠術では真似のできない奇跡でしょう。

抜歯の実例としては、明治36年に、神戸地方裁判所の太田判事が立ち合った、原田マサエ(14歳)という女子を被験者とした実験が紹介されているのですが、「(熊嶽師が)例の印字(九字)を切り、掛声の気合を五六回かけると、歯がポロリと落ちた。」と書かれているので、やはり奇跡的な治療だったようです。

なお、すべての病気が一瞬で治ったわけではなく、治るまでに15日かかったものや、なかには治らないものもあったそうです。ただし、熊嶽師がスゴイのは、どんな病人でも一目で病名を的中させ、治らない者には治らないと告げ、15日通えば治ると告げた者は必ず15日目に治癒したことです。

また、『濱口熊嶽之傳』(瀬端晴吉:著、1903年刊)という伝記が、熊嶽師がわずか24歳のときに出版されていることからも、この人がいかに偉大であったかが分かると思います。


霊術師・濱口熊嶽師の写真
【気合療法によって数多くの難病人を救った濱口熊嶽師】(画像は『濱口熊嶽之傳』より)

熊嶽師の治療法の特徴は、大きな声で気合を発することだったため、この治療法は「気合療法」とよばれることが多かったのですが、本人は自分の治療法を「人身自由術」と名づけたそうです。これは、単に病気を治すのではなく、人々を煩悩の鎖から自由に解き放つことを意味しており、衆生済度を生涯実践した熊嶽師らしい発想ですね。 (2017年5月28日)



 

 66.山下紅療法


古い文献を読むと、「紅療法」というものをよく目にします。例えば、

『紅療法講演録』(山内啓二:述、松浦玉圃:1908年刊)

『創説 紅療学講義』(小脇繁一・佐佐木笑受郎:著、東京療院:1922年刊)

『万病根治紅療医典』(小脇国秀:編、帝国療養研究所:1925年刊)

『詳解 紅療法秘伝』(武藤照正:著、京都紅療院講習本部:1926年刊)

『万病根治紅療法』(小脇国道:編述、日本紅医学会:1928年刊)

『哲理応用紅酸療法講義 紅療哲学』(江藤旭洲:講述、紅療哲学館:1936年刊)

といった本が出版されていて、最初の『紅療法講演録』が出版された1908年は明治41年ですから、どうやら明治時代から「紅療法」は有名だったようです。

また、『神経衰弱治療の正道』(廣瀬富次:著、山下紅療院出版部:1936年刊)という本によると、この「紅療法」の起源は、江戸時代に薩摩の島津家に医師として仕えた山下家で、その九世の祖、山下常興(つねおき)氏が「紅療法」の創始者だそうです。

ちなみに、この本が出版された1936年当時の山下家の当主、山下素邦氏は創始者から数えて8代目だそうなので、「紅療法」は1700年代中頃に考案されたのかもしれませんね。

なお、神経衰弱という言葉は、神経が衰弱することに起因する様々な症状を指す医学用語で、具体的には、劣等感、不安感、強迫観念、赤面症、頭痛、不眠症、めまい、肩こり、耳鳴り、のぼせ、胃腸障害、手足の冷え、心悸亢進症、生殖器障害、その他ほとんどの慢性疾患が該当するそうです。

そして、「山下紅療法」はこういった様々な症状に非常に有効だったようで、安部磯雄氏(政治家)、佐藤義亮氏(新潮社の創立者)、大田黒重五郎氏(実業家)といった有名人もこの治療法を推奨しています。ちなみに、安部氏は発声困難、佐藤氏は慢性の胃腸病、大田黒氏は不眠症が治ったそうです。

「紅療法」の特徴は、紅(べに)から作られた紅剤を用いることで、この紅剤には、酸素が多量に含まれているそうです。どうやら、紅剤を皮膚に塗って、皮膚から酸素を供給することによって神経を活性化し、病気を治療していたようです。

また、治療のやり方は、『婦人之友 二十四巻八号』(婦人之友社:刊、1930年8月号)によると、次のようになります。

1.患者を仰臥させ、腹部を探る

2.血液循環の状態(うっ血か貧血か)を診定する

3.診定した状態と部位に応じて、頭部または脊髄部に木のヘラで紅剤を塗る

4.塗り方には熟練を要するし、塗る場所が違うと何の効能もない

5.時間は30~40分で、患部をつつくように摩擦する

なお、「紅療法」の読み方は、『神経衰弱治療の正道』では「こうりょうほう」、『婦人之友 二十四巻八号』では「べにりょうほう」となっていました。『婦人之友 二十四巻八号』の記事は山下素邦氏が書いているので、「べにりょうほう」と読むのが正しいのかもしれません。

紅(べに)といえば、口紅を連想しますから、これを病気の治療に用いるという発想は意外で、とても興味深いですね。現在、「紅療法」を受けられる治療院が存在するのかどうか不明ですが、もしあれば、試しに一度「紅療法」を体験してみたいものですね。 (2019年7月13日)



 

 67.邪気抜き療法


西洋医学では、例えば不定愁訴のような、原因がよく分からない病気が存在します。一方、東洋には古来から「邪気」という存在が伝わっていて、これが様々な病気の原因と考えられてきました。例えば、カゼを「風邪」(ふうじゃ)と書くのも、先人が「邪気」を認識していた証拠でしょう。

この「邪気」について、『内観的研究 邪氣新病理説』(玉利喜造:著、実業之日本社:1912年刊)という本に非常に興味深いことが書かれているのでご紹介しましょう。

なお、著者の玉利喜造氏は、『昭和人名辞典』(光人社:1933年刊)によると、安政3年(1856年)に鹿児島県で生まれ、明治13年に駒場農学校を卒業した後、アメリカに留学した秀才で、帰国後は各地の農学校の助教授や教授、校長を歴任し、農学博士の学位を授与され、貴族院議員にも任命された人物です。

玉利氏は、病気になったことがきっかけで感覚が非常に鋭敏になり、体内を動き回る二種類の「気」が存在していることを感じることができるようになったそうです。それは、生命活動に必要不可欠な「霊気」と、本来あってはならない「邪気」の二つです。

「霊気」は、人体にある種の霊妙な作用をなす存在で、中枢神経を育成し、痛む場所があればそこに移動して治癒を試みるそうです。ただし、「霊気」は本来は丹田にあるべきもので、これが丹田から遊離すると、神経質、臆病、卑怯などの気質を生じたり、「のぼせ」の原因になることもあるそうです。

なお、丹田については、「gooブログ がんに克つ - 呼吸法について」を参考にしてください。

「邪気」は、健康な人でも絶えず発生していて、その発生源はおおむね脚の下部にあり、上昇して頭部に至り、皮膚や目・耳・鼻・口から排泄されるそうです。また、「霊気」がしっかり丹田に収まっていれば、「邪気」が内臓を通過できないので、病気になることはないそうです。

玉利氏が説く霊気と邪気の特徴をまとめると次のようになります。


霊気の特徴 邪気の特徴
・中枢神経(大脳や脊髄)を育成する
・痛みのある部分に移動して治癒を試みる
・寒さに対して筋肉を振動させて発熱する
・霊気の活動中、人は神経質になる
・丹田から遊離すると臆病で卑怯になる
・生命活動に伴い自然に発生(生理的邪気)
・微生物(特に原虫類)から発生(病理的邪気)
・諸病の原因



つまり、邪気こそが諸病の原因であり、気血の運行を改善して体内に蓄積した邪気を排除することができれば、病気を根治することが可能になるわけです。

ちなみに、玉利氏は、前回ご紹介した「山下紅療法」を、「最も劇烈にして而かも確實なる邪氣疎通法なり」と評価しています。そして、「山下紅療法」によってマラリアや糖尿病、胆石が治ることを紹介し、これらの病気の原因(マラリアの場合は発熱の原因)が邪気の蓄積によるものであると論じています。

なお、この本では、邪気を排除する治療法を総称して「排氣的療治法」とよんでいますが、これでは分かりにくいので、「邪気抜き療法」という表題をつけさせていただきました。

玉利氏によると、漢方薬や鍼灸は、気血の運行を改善するという意味において、典型的な邪気抜き療法なのだそうです。また、マッサージ、温泉、肉体的な運動、笑い、深呼吸、冷水浴なども邪気抜きに有効で、特に冷水浴は、不随意筋を収縮させることができるので効果が大きいそうです。

一方、人間には、自発的に邪気を排泄する仕組みが備わっていて、その代表がクシャミと睡眠なのだそうです。つまり、カゼの引き始めにクシャミが出たり、疲れたときに眠くなるのは、体内に溜まった邪気を排泄するためで、特に睡眠中は、神経が弛緩して邪気が大いに排泄されるそうです。

ところで、「54.幽霊撃退法・自宅編」でご紹介したように、「燃えるような赤い花」には除霊効果があるそうですが、悪霊も邪気の一種と考えれば、これは、赤い花の色素に邪気を払う力があるということでしょう。「山下紅療法」が邪気抜きに優れている理由も、紅の色に関係があるのかもしれませんね。

また、「gooブログ がんに克つ - 心で病気を治す」でご紹介したように、「笑い」が免疫力を高めてくれるそうですが、これは、玉利氏が説くように、「笑い」が邪気抜きに有効であることがその理由なのかもしれませんね。 (2019年8月8日)



 

 68.プラーナ療法


前回は、「邪気」を取り除く治療法をご紹介したので、今回は「霊気」を注入する治療法をご紹介しましょう。

『最新精神療法』(ラマチヤラカ:著、松田卯三郎:訳、公報社:1916年刊)という本によると、この宇宙空間には不可思議な力が充満していて、これをインドではプラーナとよぶそうです。なお、プラーナは、生力、霊気、生気、活力などと訳されています。また、著者のラマチャラカ氏は哲学者だそうです。

このプラーナは、生命の源泉であって、空気中にも、水の中にも、食物の中にも遍(あまね)く存在し、すべての生命体は、これを吸収することによってその生命を維持し、その活力を発揮するのだそうです。

なお、人間の場合、吸収したプラーナは脳髄や他の神経中枢に蓄えられ、必要に応じて身体各部へ神経系統を通じて供給されるそうです。そして、このプラーナを他者に伝送することによって、だれでも病気の人を治療することができるそうです。

プラーナを伝送する方法は、以下に示すように多種多様です。いずれの方法でも、まず両手を激しく摩擦し、その後、生命と精力に満ちた感じがするまで両手をあちらこちらに振り動かします。そして、自分の指先や掌(てのひら)からプラーナが流れ出ることを念じながら行ないます。


 
 
プラーナの伝送方法
1.縦行法 手の指を開き、患者の頭上からその前面に沿って手を下に降ろす。次に、指を閉じて、掌を患者の側面に向けて手を上げる。
2.横断法 両手の掌を外側に向け、患部を掻きのけるように横に動かす。次に、掌を内側に向け、同じように横に動かす。肩こりに有効。
3.指頭回転法 右手を患部の前に伸ばして手の指を開き、時計回りに回転させる。患部からの距離は17~20cm。横断法と同様に、患部に強い刺激を与えることが目的。
4.穿孔法 指頭回転法と同じように手を伸ばし、指をひねって、あたかも患部に孔(あな)を穿(うが)つような動作をする。患部に与える刺激は穿孔法が最も強い。
5.按手法 患部の上に直接手を置き、1~2分後、両方の掌をよく摩擦して再び患部の上に手を置くという動作を数回繰り返す。頭痛や神経痛に有効。
6.軽打法 右手の指先で患部を極めて軽く打つ。血液の循環不良を改善する効果があり、すべての方法の終わりにこれを用いれば、その効果がアップする。
7.按摩法 身体の一部もしくは全部を摩擦したり揉(も)んだりすることは、プラーナを伝達するのに最も有効。マッサージにも同様の効果がある。ただし、力を入れる必要はない。
8.回転摩擦法 患部の周囲を掌または指頭で時計回りになでる。
【注意】決して逆方向に周回してはならない。
9.息気療法 患部に息を吹きかけることによっても、プラーナを送ることができる。布をメガホンのようにして患部を覆い、息を吹きかける。あるいは、そのまま吹きかけてもよい。

これ以外にも、離れた場所にいる人にプラーナを送る方法がありますが、初心者にはレベルが高すぎるので省略します。

このプラーナ療法は、中国の気功や日本の手当て療法、欧米のハンド・ヒーリングなどと同じものだと思われますが、さすがにインドは歴史が古く、しかも哲学が進歩しているだけあって、論理的な裏付けがしっかりしているように思われます。

なお、日本の手当て療法の施術者として有名な塩谷信男医師や、その塩谷氏が驚愕した松下松蔵翁については、「gooブログ がんに克つ - 霊障と霊感商法」を参考にしてください。

ところで、この本には、プラーナ療法を実行する上で非常に大切なことが次のように書かれています。

「病(やまい)を癒(い)やすのは人の力でなく、前にも述べた如(ごと)く宇宙の間に磅(ぼう)ハク(=石偏に薄)して、生物殊(こと)に人類の内に其(その)精粋を集めたるプラナであって、人は只(た)だ其(その)機関となり、仲介となるに過ぎないのである。」

注) 磅ハク=まじりひろがるさま (『詳解漢和大字典』(富山房:1943年刊)より)

つまり、施術者は、この宇宙に満ちているプラーナを患者に伝達する仲介者に過ぎないということです。別の言い方をすると、決して自分の力で病気を治そうとしてはいけないということです。

実は、私も以前、気功を勉強していて、肝臓がんの患者さんを相手に約1時間の施術を経験したことがあるのですが、患者さんはどんどん顔色がよくなって、施術が終わる頃には満面の笑顔になっていました。しかし、私の方は、生気を吸い取られる感じがしてぐったりしてしまったのです。

これは、私がプラーナの仲介者になれず、自分自身のプラーナを奪われてしまったということだと思われます。もちろん、気功の先生からは、自分の気を使うのではなく、天から気を降ろすイメージでやるように言われていたのですが、初心者には実行するのが難しかったようです。

また、私の知り合いで、気功で多くの病人を治療していた人がいたのですが、ある日突然、その人が亡くなったと知らされて驚いたことがありました。おそらくその人も、知らず知らずのうちに自分の命を削っていたのでしょう。プラーナ療法を実践する場合は、この点に十分ご注意願います。 (2019年9月29日)



 

 69.漢方の偉力


日本の伝統的な医学である漢方においても、超人的な能力を発揮した人物が多数いたようなので、『漢方医学の新研究』(中山忠直:著、宝文館:1927年刊)という本からその一部をご紹介しましょう。

名医・浅田宗伯翁は、どんな病気でも治し、皇室からも厚く信頼されていたことは有名ですが、この本には脱疽(だっそ)の治療例が載っています。なお、脱疽は手足が指先から腐っていく病気で、西洋医学では指や手足を切断する以外に患者を救う方法はなかったそうです。

あるとき、三十四、五歳の男性が脱疽に罹り、右足の五指と足の甲の五分の二が腐食し、五指は全部脱落し、甲の骨は黒炭のような色を呈し、右下肢の膝関節以下ははなはだしく腫脹し、昼夜疼痛が激烈で衰弱し、複数の有名な西洋医から、膝関節、あるいは大腿中央より切断するしかないと診断されたそうです。

しかし、この人は断じて切断を望まず、足を失って生きるくらいなら死んだほうがましだと、念のため、姑息な漢方医と軽蔑していた浅田翁の診察を試しに受けたそうです。

浅田翁は彼を診察して、切断の必要はない、服薬すれば病毒を駆逐して足の甲をいくらか保存することができると言い、内服薬と膏薬で治療した結果、約四週間で腐食部がほとんど脱落し、その後の二週間で腐骨も離脱してそのあとに肉が隆起し始め、腫脹は減退して疼痛もなくなり、ついに完治して杖なしで歩けるようになったそうです。

次に、鍼灸の天才、澤田健氏は、治療経験のない病気は猩紅熱だけで、天然痘、癩病(ハンセン病)、ジフテリア、疫痢、マラリア、肺結核、動脈瘤、腸捻転、盲腸炎、眼病(結膜炎、白内障、緑内障、乱視、近視、色覚異常等)、梅毒なども治療できたそうです。

澤田氏が扱った最も重症の梅毒患者は女性で、病毒は骨にまで及んでいて日夜疼痛がはなはだしく泣きあかしていたそうで、病院や医師は手の下しようがなく、絶望を宣告して注射や入院さえ謝絶したのですが、彼女は澤田氏のことを伝え聞いて彼に治療を頼んだそうです。

そこで、澤田氏がこの女性に灸をすえたところ、その当日より尿の色が変化して臭気が鼻もちのならないものとなり、さらに三日目からは大便が緑色を呈し、続いて大便の代わりに鼻汁のような粘性の緑色物を排出して、尿と便とによって毒物を排出すること約一週間で、この女性は疼痛がまったく去って床に座れるようになり、五十日で全快したそうです。

実はこの澤田氏は、新海流柔術の達人で、同時に接骨の名手として知られていたそうですが、柔術の当て身の急所が鍼灸の経穴の位置と一致することから鍼灸の研究を始め、『十四経』という難解な鍼灸術の経典を二十年かけて解読し、ついにその書に秘められた謎を解明したのだそうです。

最後は按摩ですが、土屋松乃氏は、医者が見放した難病の患者や危篤に陥った患者を治療すること数百例に及んだそうで、そのやり方は、湯を入れた種々の形の瓶を使って全身の経絡を押し、筋肉、血管、リンパ腺の凝結を解いて血行と新陳代謝を盛んにするというものだそうです。

この本で紹介されている治療例は、有名な医学博士、永井潜氏の夫人の胃病で、彼女は久しく胃を病み、ついに口中に腫物ができて飲食がまったく不可能となり、神経が極度に衰弱して言葉も通じなくなったのですが、土屋氏が往診して治療を施したところ、一回で流動食が食べられるようになって言語も明晰になり、八日目には夫人自ら土屋氏のもとに通って来るようになったそうです。

これ以外にも、危篤の腸チフス、二十日以上続いた瀕死の便秘、危篤の肺炎などの治療例が紹介されていますが、この按摩も、『十四経』の経絡を基礎として施術しなければほとんど効果がないそうです。

ところで、西洋医学は、全般的に病気の原因を治療しないという伝統があり、対症療法によって見当違いの処置を患者に施すことは珍しくないようですが、不思議なことに、西洋医学を信奉する人は非常に多く、そのため、宗教施設も顔負けの巨大な総合病院や製薬会社のビルが全国各地に立ち並んでいます。

こういった状況を打破するため、八十年以上前に西洋医学の問題点を具体的に指摘した漢方医・鮎川静氏の著書を再構成して、『西洋医学 間違いだらけの治療法』という本を出版いたしました。


「西洋医学 間違いだらけの治療法」の表紙

この本の内容は、以下のようになっています。

第一章 子宮後屈症治療の間違い
第二章 卵巣機能不全治療の間違い
第三章 脳膜炎治療の間違い
第四章 麻疹治療の間違い
第五章 赤痢治療の間違い
第六章 腸チフス治療の間違い
第七章 骨髓骨膜炎治療の間違い
第八章 盲腸炎治療の間違い
第九章 高血圧症治療の間違い
第十章 脊椎カリエス治療の間違い
第十一章 腎臟炎治療の間違い
第十二章 湿性肋膜炎治療の間違い
第十三章 肺結核治療の間違い
第十四章 百日咳治療の間違い
第十五章 喘息治療の間違い
第十六章 胃酸過多症治療の間違い
第十七章 消化不良治療の間違い
第十八章 蓄膿症治療の間違い
第十九章 子宮内膜炎治療の間違い
第二十章 不妊症治療の間違い
第二十一章 月経困難症治療の間違い
第二十二章 膀胱結石治療の間違い
第二十三章 皮膚病治療の間違い
第二十四章 急性結膜炎治療の間違い
第二十五章 むすび

そして、巻末に下記の付録を添付してあります。

付録一 その他の漢方薬治療法
付録二 鍼灸の偉力
付録三 がん治療の間違い

もしこれらの項目に思い当たることがおありでしたら、お読みいただければ幸いです。また、各章毎に漢方の解説をつけているので、漢方の入門書としてお読みいただくことも可能です。 (2020年9月14日)



 

 70.不思議な民間療法


国立国会図書館デジタルコレクションには、民間療法を紹介する本が数多くあります。今回は、そのなかでも特に信頼できそうで、しかも、不思議な効能を発揮する処方を多数収録した『保健長寿漢方治療 皇漢医話』(久米嵒:著、下田文栄堂医学書店:1930年刊)という本の内容をまとめてみました。よかったら参考にしてください。

◆シラミの駆除

シラミは、現代でも駆除が大変なようですが、もし、子どもがシラミをもらってきたら、頭髪にタバコの煙を吹きかけながら梳(す)き櫛で丁寧に梳き取ると、簡単にシラミを駆除できるそうです。タバコは優秀な殺虫剤なのですね。

なお、この本には、味噌汁がタバコの毒を消してくれるとも書かれているので、愛煙家の人は味噌汁を毎日飲むとよいようです。

◆変蒸熱(知恵熱)

変蒸(へんじょう)とは、小児の気血が成長することを意味し、その際の発熱を変蒸熱、あるいは知恵熱とよぶそうです。小児が発熱した場合、耳が冷たく、尻の先が冷たければ、それは知恵熱なので安心してよく、いくら熱が高くても薬などは用いないほうがよいそうです。

それでも心配な場合は、日本紅を額に五百円硬貨くらいの大きさに濃く塗っておくとよいそうで、紅は解熱にとても効果があるのだそうです。なお、紅の不思議な効能に関しては、以前ご紹介した「66.山下紅療法」や「67.邪気抜き療法」を参考にしてください。

◆カニババ(胎便)

初生児の体内の穢物(おぶつ=糞便)をカニババ、あるいは胎便といいます。江戸時代までは、初生児の排泄にも気を配る習慣があり、産まれた子どもに直ちに五香湯(ごこうとう)、あるいは甘蓮湯(かんれんとう)を飲ませてカニババの排泄を促したそうです。

そうすると、早くて三日間、長いときは七日間くらいは真っ黒な糞便を下したそうで、このカニババの量が多い程生育が良好であるといい習わしていたそうです。なお、五香湯や甘蓮湯は俗にマクリ(末久里)とよばれますが、これは体内の穢物をマクリ捨てるという意味から名づけられたようです。

◆妊娠中の寒け

臨月の婦人がにわかに寒さを感じて震えがついた際には、塩一升と糠一升を焙烙(ほうろく=素焼きの土鍋)で煎って熱くし、これを袋に入れて妊婦の首筋から腰の下まで勢いよく三回こすり下ろすと、不思議なことに寒けが治まるそうです。

◆打撲

野生の山梔子(くちなし)を煎って粉にし、同量の小麦粉と混ぜ合わせて保存しておき、打撲の際に、これを鶏卵の卵白で練って紙にのばしつけ、患部に当てて包帯で固定すれば、一週間程度で全治するそうです。ただし、庭園で栽培されている山梔子を使った場合は効果がないそうです。

◆ニキビ、ヒビ、アカギレ、疥癬

シラン(紫蘭、漢方では白及)は、顔に塗るとニキビが治り、手足に塗るとヒビやアカギレが治り、疥癬に塗るとヒゼンダニが死滅して全治するそうです。なお、シランの使い方ですが、『薬草と毒草の図解』(竹生太一:著、竹生英堂:1919年刊)という本によると、根を乾燥させて粉末にし、油で練るそうです。

◆食あたり

食あたりには、黒大豆を大きく一握りに甘草一つまみを煎じた黒大豆甘草湯(くろだいずかんぞうとう)が有効だそうです。これは、細菌性の食中毒だけでなく、フグやトリカブトの中毒にも効く優れモノだそうです。

◆丹毒

丹毒とは、皮膚の傷に細菌が感染して炎症を起こす病気で、皮膚は鮮紅色となり、腫脹や疼痛を伴うそうです。これには、患部に大根の葉の汁をつけるのが有効だそうです。また、アブラナでも同様の効果があるそうです。(ちなみに、大根はアブラナ科の植物だそうです。)

◆肺結核

肺結核は、自分の尿を飲む「尿療法」だけで治るそうで、「結核に自溺(じにょう=自分の尿)を飲むものは百に一死なし」と言われているそうです。なお、尿療法については、「gooブログ がんに克つ - 万病に効く無料の特効薬」を参考にしてください。

◆瘭疽(ひょうそ)、神経痛、リウマチ

瘭疽とは、手の指が腫れて激しく痛む病気だそうです。これには、生の牛蒡(ごぼう)の葉に塩を等分に合わせ、押し糊に混ぜて患部に貼れば、三日程度で完治するそうです。また、塩を減らして糊を用いずに、すべて腫れを伴う痛みに有効だそうで、神経痛やリウマチも治るそうです。

◆背や腰の痛み

背や腰が痛む場合は、綿の袋に酒糟(さけかす)を入れてよく蒸してから寝台に置き、痛む部分がこの袋に当たるように仰向けになればよいそうです。なお、注意事項として、1日に3回以上はやらないことと、これを実行中は熱いものを食べてはいけないそうです。また、入浴も控えたほうがよいそうです。

◆昏睡状態

突然昏倒して昏睡状態に陥ったときには、皀莢(さいかち)の粉末を鼻孔に吹き入れると、すぐに甦るそうです。また、これは、縊死者や溺死者にも試してみる価値がある優れモノだそうですが、日本に自生する皀莢には効能がないそうなのでご注意ください。

なお、『常用救荒 飲食界之植物誌 第5篇』(梅村甚太郎:著、永昌堂:1906年刊)という本によると、皀莢は暖帯に自生する槐(えんじゅ)に似た落葉高木で、幹や枝に鋭いとげがたくさんあるそうです。



いかがだったでしょうか。今では忘れられている不思議な治療法や健康法が意外と多いことに驚かれたのではないでしょうか? この本には、これ以外にも面白い記事が多数掲載されているので、よかったら国立国会図書館デジタルコレクションにアクセスしてご覧ください。 (2020年11月28日)



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